1.IPSに対する世界的な評価
精神障害者の就労支援についてはIPSという一定の支援原則に沿った方法が世界中の研究で就職率、定着率で有効性を示し、一番効果がある認識されています。支援原則は6~8原則として示され、これに沿った支援とそうでないものを比較し有効性が検証されています。これについては、職業総合センターがIPSに関する論文を見渡して整理してまとめた「医療機関における精神障害者の就労支援の実態についての調査研究」報告書が一番詳しく、かつ無料で公開されているものとなります。
IPSの原則、支援の中身については、ワーキングライフという本で初めて日本に紹介されました。IPSが生まれたアメリカでは、支援方法の忠実度:フィデリティも開発され、一定の原則以上に支援のコツが細かく規定されるに至っています。ワーキングライフにおいても、その一部(あるいは試み)は紹介され、どのような実践が適切なのかについてイメージできるようになっています。国内では私たちの「働くこととリカバリー、IPSハンドブック」が唯一の出版物として、具体的な様子を紹介しています。
なお、わが国ではIPSと一体的に紹介されることも多いですACTは、理念に共通点もあり相性はいいかもしれませんが、ルーツもサービス提供チームも全く異なる別のものです。ワーキングライフでも、そのことがうかがえる記述があります。IPSは保護された環境にはない社会が持つ「場の力」を知っています。患者ではなく働く者として(as a worker)生活することがリカバリーにもたらす作用を経験的に活用したリハビリテーションです。髪を切るのは病室でなく床屋、排泄はポータブル便器でなくトイレであり、働くのはデイケアや作業所でなく職場であるべきだと考えます。同じように医療処置を受けるのは自宅でなく病院が適切だと考えます。強い症状が出たときや薬の変更時など高度な医療的処置や観察が必要な場合、自宅を治療の場としない入院という社会資源を選択肢として提供しています。入院期間が長引くと希望の喪失や体力低下、地域との関係の断絶など副作用も出かねないので慎重に検討しますが、入院しながら就業を継続するためのIPSを提供することもあります。これは日本ではIPSと一体的に紹介されることが多いACTとの違いでしょう。
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