12.日本の社会資源とIPS実践との関係
日本でIPSを実践するにあたり、専用の財源はありません。既存の社会資源を活用し、IPSスタイルに近づけていく努力が必要です。これは悲観すべきことでありません。IPS実践を想定した財源が用意されたとしても、そこでサービスを提供する人々は今と変わりありません。すでに精神障害がある方たちが利用できる医療機関、福祉機関、労働機関を廃止し、IPS提供にふさわしい社会資源をゼロから作り直すことは、既に作り上げてきたノウハウやネットワークが無駄になるためデメリットが大きいことを考えると、既存の社会資源を活用したIPS提供体制を模索、構築する必要があるわけです。
現行の社会資源(財源)を活用し、下記のようなIPS提供が論文や学会における実践報告として確認できています。
事業形態
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方法・特徴
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課題
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就労移行支援(訓練等給付)
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訓練プログラムを設けず、援助付き雇用スタイルを採用
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サービス提供期間、医療との統合、修学支援の提供
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自立訓練(機能訓練)(訓練等給付)
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訓練プログラムを設けず、リハビリとして就労・修学支援を提供
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就労支援員の確保、サービス提供期間、医療との統合
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地域活動支援センター事業(補助)
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登録者への総合相談として就労・修学支援を提供、提供期間に上限なし
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就労支援員の確保、医療との統合
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障害者就業・生活支援センター事業(受託)
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労働系財源による援助付き雇用型の支援機関
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圏域全体の3障害へ対応が必要、医療との統合、修学支援の提供
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デイケア(診療報酬)
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デイケアプログラムの一環として就労・修学支援を提供
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就労支援員の確保、集団・訓練プログラムとのバランス、医師との連携
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また、論文等での報告に至っていませんが、私たちの研修を受けるなどによりアイデアを手にした方たちが、下記のような事業を活用したIPS提供も試みられており、可能性の検証が期待されています。
事業形態
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方法・特徴
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課題
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共同生活援助(グループホーム)(訓練等給付)
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世話人業務の一環として就労・修学支援、生活支援と一体可能
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就労支援員の確保、サービス提供期間、医療との統合
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就労継続支援B型(訓練等給付)
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サービス提供期間に限界がない
就職後も利用可能
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就労支援の実施、工賃作業とのバランス、医療との統合、修学支援の提供
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就労継続支援A型(訓練等給付)
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サービス提供期間に限界がない
それ自体が一般就労とも考えられる
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就労支援の実施、労働作業との兼合い、医療との統合、修学支援の提供
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相談支援事業(地域生活支援事業)(受託)
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総合相談の一環として就労・修学支援を提供
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就労支援員の確保、医療との統合
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移動支援事業(ガイドヘルパー)(受託)
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ハローワークへの同行など外出支援による就労・修学支援
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就労支援員の確保、医療との統合、支給決定の可否
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訪問看護(診療報酬)
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医師と連携した在宅就労・修学支援、生活支援と一体可能
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就労支援員の確保
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いずれの財源も課題があり、IPSの7原則を満たすためには財源で想定されたサービス以外について、多機能型にする、またはいわば手弁当のサービス提供、あるいは他機関との連携(チーム形成)が必要となります。実はこのことがとても大切なことだと考えています。つまり、与えられた財源と制度で想定された援助を行うだけで質の高いサービスが提供できると考えるのは辞めましょう。IPSを実践する方の資質として、援助方法については報酬規定でなく、当事者の想いや生活に従う能力が必要です。
アメリカのIPSは、IPSワーカーが所属するセンターから、各病院へ1名ずつ派遣されるイメージです。職場は医療機関となりますが、センターに帰ればIPSワーカー同士の支え合いや研鑽、情報交換も可能となります。一方で、医療との統合、つまり現場の医療スタッフとの意思の疎通に苦労するそうで、これは日本と同じようです。医療機関内でどうやってIPSの実践を可能としているかについて、バーモント州のIPSワーカーから尋ねられたこともありました。
桜ヶ丘記念病院におけるIPS実践について特に財源はなく、法人全体が得る診療報酬等の中で人件費は賄われています。これはIPSワーカーが提供するサービスで診療報酬は得られませんが、医療機関として行うべきサービスだと位置づけているためです。財源がないためこれ以上の増員等は難しいと考えられていますが、特定の財源に縛られず自由に必要に応じてIPSにふさわしいサービスを提供するために必要な環境は一番得やすいと考えています。
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