18.
コミュニティソーシャルワークとしてのIPS
このような現状認識を踏まえ、私たちは桜ヶ丘記念病院によるIPSの提供方法の方向を転換することとしました。これは公的な色合いの強いコミュニティソーシャルワークとしてのIPSを展開することを意味します。「ワーキングライフ」「ストレングスモデル」のいずれにも、精神障害者の地域統合を実現するためのコミュニティソーシャルワークの方法について記されているように、リカバリー志向の地域作りもIPS支援の守備範囲と捉えなおしたわけです。この方向転換にあたり、その実践はIPSの土台であるストレングスモデルに基づくべきであることを私たちは確認し、ポジティブな感情に基づきWin-Win関係を構築する交渉術の原則を活用しながら、次のような方針を立てました
【注】コミュニティソーシャルワーク:1982年の「バークレイ報告」で提案された、地域を重視したソーシャルワーク。対面的な個別支援、地域で生活するために必要な社会資源への到達に関する支援に加えて、必要な社会資源の開拓、開発、ネットワーク構築をソーシャルワークとして行なうこととなる。【参考】ストレングスモデル第7章 資源の獲得 地域を地域精神保健に戻す
【参考】ワーキングライフ第10章 求職活動 5.仕事を見つけるための戦略
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Win-Win関係を構築する交渉術
1.
価値を理解する
2.
つながりを構築する
3.
自立性を尊重する
4.
ステータスに配慮する
5.
役割を活用する
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地域連携のための方針
1.
地域のストレングスに注目する
2.
理念の共有に努める
3.
専門用語に頼らない
4.
エビデンスを武器にしない
5.
他機関とケースを共有する
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地域連携のための実践
1.
本人が書いたケアプランの活用
2.
リカバリームービーの上映
3.
役割分担をして連携
4.
就労支援ネットワークの運営
5.
IPS支援者養成研修の実施
6.
リカバリーの学校の活用
7.
企業への支援
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国内でもIPSを提供する機関が増えたものの、コミュニティソーシャルワークの実践について報告は残念ながらほぼありません。その一方、「理解がない」「考え方が古い」といった地域への不満をあらわにするIPS提供機関、力ずくで自己主張するIPSに対する不信感について語る地域関係者の声を耳にすることがまだ多いのが現状です。ここで語られるIPSとは、リカバリー志向やストレングスモデルから外れていると言えるでしょう。私たちのコミュニティソーシャルワークも、まだ駆け出しです。私たちを育てている先生と教科書は、精神疾患がありながらも日々の生活に挑戦し、よりよく生きようとしている方々であり、ここに記したように地域の関係者です。あらためて深く感謝し、これからもお世話になることをお許しいただきたいと考えています
なお、ピアサポートについては病院の仕組みにあえて取らず、院外でも活動する任意団体リカバリーキャラバン隊を組織し導入しています。
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