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IPSの普及のカギを握る医療機関の存在
結局は精神障害者に対する援助を行っている立場にあれば、IPSの原則を少しでも取り入れることで、よりリカハリー志向でかつ効果がある援助に移行することはできます。しかし、こうして国内外のサービスや治療文化を見渡してみると、日本のみならずIPSの7原則を満たすための最大の課題は、医療との統合にあると言えそうです。精神科リハビリテーションと職業リハビリテーションが一体的に行われているものをIPSと呼ぶという原則を満たすためには、主治医は最低でも薬物療法により精神障害者に関わっていることを考えると、幸か不幸か主治医を巻き込んでいなければならないというわけです。この意味で全てのケースについて主治医とチーム形成をしているIPSを実施している事例は、わが国では桜ヶ丘記念病院の実践のみになってしまいます。
日本の施策を振り返れば、過剰な医療費により社会保障費がふくれあがりパンクするのを未然に防ぐために、多少の変更はあったかもしれませんが医療費を生みだす医師の数を制限するという国策が取られてきました。現在でも不要な治療、薬物を投与していると指摘されてもおかしくない不適切な事例がしばしば見られることを考えるとこの施策は一定の妥当性があると今後も考えられるでしょう。つまり、医師の数は今後も劇的に増える見込みはありません。限られた医師が最大限の力を発揮し、かつ不要あるいは不適切な治療を医療機関内で未然に防ぐ役割を担うのが、コメディカルと呼ばれるスタッフたちです。精神科の場合は、看護師、精神保健福祉士、作業療法士であると言えるでしょう。医師とコメディカルが対等に治療方針を話し合う環境を作ることで、医師の数が限られているにもかかわらず患者は有益なリハビリテーションを受けることが可能になるというわけです。医師の言う通りに動くのでなく、医師と対等に他のスタッフが患者の治療方針について議論できる文化が精神科医療に必要になります。そして医師でもコメディカルでもよいのですが、そのチームに就労・修学支援に強く関われる者が1名以上いることが、IPSの原則に基づいたサービスを日本(実は欧米でも同じようですが)で普及、定着させるためには必要な条件になります。
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