9.IPSの原則に対する心構え
精神疾患がありながらも充実した生活を送る方たちは、援助者の知らないところにたくさんいました。援助者の手を離れることで、患者ではない1人の人間として過ごすことができます。援助者がいないと彼らはうまく生活できないというのは、援助者の驕りでした。
こうしてリカバリーを語るような人たちに共通していたのは、特別なリハビリや訓練を受けたことではなく、症状や病気に特別に対処できることでもありませんでした。それは、患者ではなく1人の人として地域に馴染み、人としての良さ・個性を活かし愛され、人として目的を持って生きている人たちでした。精神障害があっても人としての可能性をうまく発揮できることでリカバリーは可能になっていました。ここから逆算して、症状でなく個人の長所を基軸に地域生活が送れることを援助しようという発想が生まれることとなります。これがストレングスモデルです。
IPSの問題意識を踏まえた上で、活用できる臨床サービスを最大限に取り入れ、就労支援に限定した場合の援助方針をまとめたものがIPSの7原則となります。
ただし、この7原則は援助側の都合であることを忘れてはいけません。IPSの源流にはエンパワメントがあり、専門的援助の存在そのものが彼らのリカバリーの壁の一端を担っているという自覚があります。患者からの「援助者でありながら、私のことを患者(被援助者)ではない1人の人間として観てくれますか?」という無言の問いかけに対して、「はい」と応答できるわずかな可能性を探ることこそが私たち援助者の責任(responsibility=応答可能性)なのです。7原則以前に援助者が持つべき、この態度という責任/応答可能性を思い出すべきです。援助側の都合で本人たちを振り回すようなことがあってはなりません。
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